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Jaime ジャイム

ポルトガル映画 (1999)

この映画は、ポルトガルにおける深刻な児童労働問題に焦点を当てている。『A Economia Portuguesa na Uniao Europeia(欧州連合におけるポルトガル経済): 1986-2010』(2014)という本の4章2節に「Trabalho Infantil em Portugal(ポルトガルの児童労働)」という分かり易い解説があり、その中で、サラザール〔António de Oliveira Salazar〕による独裁政権(1933~68年)と、その後の「サラザールなきサラザール体制」が 1974年4月25日のクーデターで打倒(カーネーションの革命)されるまでの間、児童労働はポルトガルのいわば “伝統” であったと書かれている。それは、4章2節に掲載されていた右の図「ポルトガルの児童労働」を見れば明白だ。このグラフは、「最初に働き始めたのは何歳の時か?」という質問に対する答えを、(10-14歳)と(15-19歳)に分けて%で示している〔例えば、1973年頃には、全人口の40%程度が10-14歳から働き始め、85%が15-19歳から働き始めた〕。映画の設定が何年かは分からないが〔通貨としてエスクードが使われているが、ポルトガルがEUに加盟したのは1986年1月1日だが、ユーロの導入は1999年1月1日から〕、かなりの14歳以下の少年少女が学校をさぼったり、夜間に働いたりしている。先の4章2節には、「1974年の独裁政権の終了後、外部世界との大幅な開放性、及び、豊富な労働力という状況が、労働集約、未熟練、低成長部門に特化した経済の復活をもたらした。1977年以降、ポルトガルのエスクードが大幅に切り下げられたとことも、これに拍車をかけた。1973年、及び、1977年の欧州経済共同体との貿易協定も、編物、衣類、履物など、児童労働と結びつくことの多い産業によって生産されるポルトガルの労働集約型製品の需要増加を誘発した」と要約されている。この映画の主役の13歳のジャイムと、その友達となる12歳のウリースは、共に、いろいろな場所で昼夜を問わず働いている。ただ、2人の間で根本的に異なるのは、ジャイムの母は息子が勝手に働いていることを知らず、ウリースの母は逆に息子に働くよう命じている点。ジャイムが働いているのは、母と別居中の父が、バイクを盗まれて失職したのを救うため。そのためか、誰に何を訊かれても、常に嘘を付いて “働いていること” を否定する。そして、この映画には、ある意味、何の救いもない。父は自殺し、ウリースは事故死する。母は、蓮っ葉な生活を止めるが、ジャイムはそれでも働き続ける。なお、この映画の中には労働監督官が主要な登場人物として登場する。その役目は、違法に働いていると判明した子供達に接触し、その行為を正すことにある。先の資料にある2枚目の図を右に示すが、(労働監督官の活動)が盛んになるにつれて、(違法に働く子供達)が激減している。しかし、映画の中の労働監督官は、ジャイムに何度も忠告し、最後には、「君には2つの選択肢しかない。一生靴磨きで終わるか、お父さんのように自殺するかだ」とまで言うが、効果はゼロ。ジャイムは、一体どんな人生を送るのだろうか? これほど先行きが暗い映画も珍しいが、20世紀末のポルトガルでは現実にあり得ることだったのであろう。

1980~90年代のポルトガルは、多くの人が失職し、大人の労働で食べて行けない家庭は、子供を働かせて何とか食いつないでいたという信じられない社会だった〔私は、ポルトガルには1回しか行ったことがない。しかし、それはちょうど1993年。この映画の舞台となっていたかもしれない年だった。しかし、外から見ただけなので、そんなにひどい状況下にある国だとは、全く気付かなかった〕。しかし、映画の主役ジャイムは、母がスーパーで働くことができているので、学校に行くのが当然とされ、子供が働くなんてもっての他という、“貧しくとも幸せな” 環境にあった。一方、重要な脇役であるジャイムの友ウリースは、母親から働くことを強く命じられている “ある意味 標準的で不幸な” 少年だった。しかし、その “幸せ” なジャイムは、“ある意味 例外的に不幸な” 少年でもあった。それは、母が父と別居し、ジャイムの親権は100%母が握っていた。しかし、その母は、同棲しているブラジル人と、ジャイムの前で平気でセックスするような恥知らずな女性で、自分が働いているスーパーの上司ともいい関係にあった〔だから雇ってもらえた〕。そして、別れた夫を徹底的に嫌っていた。だが、ジャイムは、その父が大好きで、バイクを盗まれたために失職し、長らく倉庫で暮らしている父を 母に内緒で訪れ、いろいろと世話を焼き、新しいバイクを買って、父にもう一度働いてもらおうと考えていた。そのため、何とかお金を貯めようと、母がブラジル人と寝ている夜間、パン工場で働いていたが、同年の少年が指を失うケガを負ったため、情報が漏れないように、上司からクビにされてしまう。そこで、ジャイムは、同じクラスのウリースに頼んで、縫製したYシャツの運搬やゴルフのキャディをして、夜も昼間も働き続ける。このような行動は、ジャイムに、新たな2人の人物との出会いをもたらす。順番から言えば、1人目は、闇商売のプロモーターのような男ガルセーシュ、2人目は労働監督官のコルーナだった。最初に、ジャイムに濃厚接触したのはコルーナの方で、ジャイムは得意の嘘を連発し、自分が違法に働いているという事実を隠し通す。次に、ジャイムとの接触が描かれるのが父。父のために貯めていたお金を ブラジル人に盗まれ、そのブラジル人を庇い、息子を信じようとしない母に絶望したジャイムは、父の倉庫で暮らし始める。しかし、怒り心頭の母が父から強引にジャイムを奪おうとし、ジャイムが反撃して逃走したことで、責任を感じた “ある意味 世捨て人” の父は、首を吊って自殺する。そのあと、建設工事現場で、高所恐怖症のウリースが足を踏み外して転落し、昏睡状態となり、数日後に死亡する。父も友も失くして1人になったジャイムは、最初に会った時にジャイムに好意を抱いてくれたガルセーシュに救いを求めに行き、車庫の管理人として雇われる。ジャイムは、母と和解し、母は、これまでの奔放な生活態度を反省し、これも、かねて母に好意を寄せてくれていたのに無視してきた肉屋のレジ係として働くことにする。これで、ジャイムは、仕事をやめて学校に戻ると母は期待したのだが、ジャイムは、車庫の管理人が気に入って、そのまま社会人として働き続ける〔ラストがはっきりしない。ひょっとしたら、管理人で稼いだお金でバイクを買い、そこで辞職し、以後学校に通うことにしたのかもしれないが、ジャイムの性格からは考えられない〕

主役のジャイムを演じるサウル・フォンセカ(Saúl Fonseca)は、これが映画初出演。1985年生まれなので、撮影時は13-14歳と、映画の設定と同じ。この後、TVに少し出ただけで、俳優人生を終えている。ジャイムの友人となるウリースを演じるのはサンドロ・シルヴァ(Sandro Silva)。彼も映画初出演。生年月日は不明。映画ではジャイムより1歳年下になっているが、実査にはもっと小さいに違いない。TV映画『Facas e Anjos』(2000)に出演した時は6歳という設定だが10-11歳くらいに見える(右の写真)。

あらすじ

映画は、いきなりパン工場のシーンから始まる。広い台の上に、ポルトガルの丸い白パンの生地がずらりと並べられている。働いている人のほとんどは大人だが、中には14歳以下の子供も混じっている。そのうちのある子が、パン生地を大量に丸く繰り抜く機械の所に行く。男が取っ手を下げて繰り抜くと、悲鳴が上がる。すぐにボスが呼ばれる。2階から飛んできたボスは、指が何本か切断された手を(1枚目の写真、矢印)、白い布で押さえる。ボスは、ジャイムに命じて、ケガをした子の服を持って来させる〔全員が白い作業衣を着ている〕。そして、近くの男に、「病院に連れて行くぞ。車のキーを取って来い」と言い、さらに、ジャイムには、「こいつ、どこに住んでるか、知ってるか?」と訊く。「知ってます」。「ジャケットを取って来て、一緒に来い」。ボスは、苦しそうに呻く子を、数人で車まで運ぶ。車を出したボスは、ケガをした子を抱いてやっているジャイムに、「指は全部持って来たか?」と訊く。「いいえ」(2枚目の写真)。ボスは、急ブレーキで車を停め、「切断された指はくっつけられるって知らんのか?」と怒鳴ると、ジャイムに走って取りに行かせる〔最初から、そう指示すべきだった〕。次のシーンでは、氷と指の切れ端が入ったビニ袋をジャイムが持ち、ケガをした子は気を失っている。指示された建物の前で車は停車。ジャイムは車を飛び出すと、数階建てのアパート向かって、「ヴィエイラさん!」と叫ぶ。ボスは、「叫ぶな。ドアをノックしろ」と指示。「何階なのか知りません」。ボスは、車から出ると、罪もないのにジャイムの頭を一発叩き、アパートに向かって、「ヴィエイラ!」と怒鳴る。3階の電気が点き、男が顔を出す。「何だ? 何の用だ?」。「俺を覚えてるか? パン工場から来た」。「ルイのことか? どうかしたのか?」。「心配するな。降りて来い」。「何が起きたんだ?」。「降りて来い」。
  
  
  

車は、ルイの父を後部座席に乗せ、ジャイムを助手席に移し、病院に向かって走り出す。車の中で、ボスは、父親に向かって 「何も言うな。パン工場のことは伏せとけ。いいな?」と命令する。「ご心配なく。ナイフで遊んでたと言います」(1枚目の写真)。「そうだ。あんたの家でな」。ボスは、ケガさせたことを詫びるどころか、「そのガキを働かせて欲しいと頼んだのは、あんただったよな?」と、父親を責める。「そうです」。「失業中だから 金が足りないとかで、仕事をさせてやって下さいとか言って。そうだな?」。「そうです」。「もし、一言でもパン工場と漏らしたら、後悔するぞ。賠償金を受けられなくしてやる」〔何という下司男!〕。病院の脇に車を停めると、ボスは幾らかお金を渡し、「これは、前払いだ。あとは、あんた次第だ」と言い、運転席から手を伸ばして後部ドアを開ける。その様子を、“何て奴だ” という顔でジャイムが見ている(2枚目の写真)。車から出た父親は、運転席まで行くと、「すんません。幾らくらいもらえるんですか?」と訊く。「幾らって、何が?」。「賠償金です。だいたい、幾らくらいもらえます?」。「ヴィエイラ。心配するな。後悔はさせん。信じろ。今は、息子のことを心配しろ。病院に連れて行ってやれ」。父は、後部座席にいた息子を抱き上げる(3枚目の写真、矢印は出血で染まった布)。この短いシーンで、ポルトガルの過酷な児童労働と、鬼のような経営側と、ゴミのように扱われる使用人側の関係が、痛いほどよく分かる。
  
  
  

2人がいなくなると、ボスは、「何て名だ?」と訊く。「ジャイム」。ボスは、ジャイムの頭を軽く叩くと、「なあ、ジャイム、こんなことがあった後で、お前を雇うことはできん。分かるな?」と言い出す。「なぜです?」。「どっかから話が漏れて、労働監督官が来た時、お前がいちゃ困るからさ。それが人生なんだ。不公平かもしれんがな」と言い、お金を渡し、「家に帰れ。他の仕事が見つかるさ」と言い、何度も頭を叩いてバイバイする。車が去った後、札を数えたジャイムは(1枚目の写真)、「5000エスクードしかない。どケチめ」〔レートの変動が激しく、何年か分からないので、円レートは不明〕〔後で、バイクの安売りで、6万エスクードと表示されている→ネットで小型バイクの安売りを見てみたら、似たようなのが32890円と書いてあった。5000は6万の12分の1なので、32890円の12分の1は2740円。確かにどケチだ〕と、車の去った方を睨む。ジャイムは、途中で、会計ノートに書き込む(2枚目の写真)。このページには、上に「4月/パン工場」と書かれ、その下の文字は読めないが、金額は、総計で9000エスクードになっている。右の紙は、買う予定のバイク。家に戻ったジャイムは、こっそり自分の部屋まで行くと、棚から玩具の赤い車を取り、中に隠してあったお札にさっきもらったお札の大半を入れる(3枚目の写真、矢印)。赤い照明器具の下には、大好きな父に渡すためのタバコ代が残してある。
  
  
  

朝になり、ジャイムは母の寝室に行く。母の横には、愛人のブラジル人が寝ている。ジャイムは母を起こすが(1枚目の写真)、母は 「アントニオを起こしちゃうわ」と注意し、ジャイムは、「ブラジル人のろくでなしは、寝てばっかりだ」と、その存在自体を嫌っている。倫理観に乏しい母は、自分が結婚もしていない愛人と裸に近い格好で寝ているのを息子に見られても何とも感じない。ジャイムの批判に対しては、「遅くまで仕事してたからよ」と庇う。2人は 朝食テーブルに移動。ジャイムは、先ほどの母の言葉に対し、「あいつ、どうして夜遅くに働いてるの?」と訊く。「ビジネスしてるから」。「どんなビジネス?」。「物の売買よ」。「なら、どうして、あいつ いつもママからお金もらってるの? ビジネスしてるんなら、とっくに金持ちになってるハズじゃないか!」。「あんたの知ったことじゃない」。「僕は 大きくなったらビジネスなんかしない。ちゃんとした仕事に就くんだ」。「あんたの父さんみたいに、浮浪者で終わらないように気を付けないとね」。ジャイムは父を弁護する。「父さんは、バイクを盗まれなかったら、クビにはならなかったんだ」(2枚目の写真)「きっと、職に就けるよ」。「あんなダメ人間が?」。「そんなこと言うなよ!」。この口の利き方が悪いと、母から叱られる。「父さんが職に就けば、ちゃんとしたアパート、借りられるよ」。「おやめ! あんたの父さんとは、二度と一緒に住む気はないの。分かった!? たとえ宮殿を借りようが、知ったこっちゃない。あの人とは、完全に終わってるの!」(3枚目の写真)。
  
  
  

そのあと、母は、ジャイムに、2人の幼い妹を起こすように言う。次のシーンでは、母とジャイムが、1人ずつ小さな女の子を抱えて 1軒の家に入って行こうとする(1枚目の写真)。すると、2階のベランダから、「どこに行くんだい?」と声がかかる。その中年女性は、今まで2人の妹を預かってくれていた人物なので、母は 「デオリンダ、それ、どういうこと?」と逆に尋ねる。「いいかい、あたしゃ、慈善事業をやってんじゃないんだ。今、下りてくからね」。デオリンダが不機嫌なのは、預かり料の支払いが遅延しているからで、その理由は、母が ブラジル人のアントニオにお金をせびり取られたため。そうした母の素行を知っているデオリンダは、嫌味を言うが、母は、持っているお金を全部渡し、後は、夕方払うと約束し、何とか預かってもらう。外に出たジャイムは、母と一緒に階段を上がりながら、「あいつ、デオリンダに渡すお金 使い込んだんだろ?」と訊く(2枚目の写真)。「誰?」。「あいつ」。「アントニオって名前があるのよ。あんたの知ったことじゃない、って言ったでしょ」〔アントニオもロクデナシなら、そんな男に金を貢いでいる母もロクデナシだ〕。因みにこの階段路は、映画の舞台となっているポルト〔ポルトガル第2の都市〕の街を二分しているドウロ川〔O Douro〕に架かる世界遺産のドン・ルイス1世橋〔Ponte Dom Luís I〕(1886)のすぐ横にある有名なコデサルの階段〔Escadas do Codeçal〕(3枚目の写真は、2枚目とは逆に下から上を見上げたもの。ドン・ルイス1世橋が一部写っている)。1人になったジャイムは、バイク屋に行く。そこには、前から欲しかったバイクが置いてある。「金は持って来たか?」。「月末だって言ったろ」。「それを欲しがってるのは、お前さんだけじゃない」。この発言を訊くと、“売らんかな” のようにも受け取れるが、店主の意見は逆。「こうした下らん物に乗って自殺したがる スピード狂のガキが多くてな。もう2人が死んだ。お前さんが3人目になるかもな」。「僕は、あんたの息子じゃないよ」。「俺のガキがそいつに乗ろうとしたら、ぶっ殺してやる」(4枚目の写真)。
  
  
  
  

そのあと、ジャイムが、父が暮らしているドウロ川沿いの倉庫に行き(1枚目の写真、矢印)、鍵を開けて中に入る。普通の人なら仕事に行く時間になっても、父はベッドで眠っている。ジャイムはベッドに座ると、持って来たタバコを口にくわえ、ライターで火を点けてから、父の口にくわえさせる(2枚目の写真、矢印)。「やあ、父さん」。「今、何時だ?」。「10時ごろ」。「もうか? あとで、仕事の約束がある」。「どんな仕事?」。「ヨットクラブみたいなもんだ」。「どこ?」。「河岸の近く。どこか そこら辺だ」。「この前 言ってた仕事は?」。「ダメだった。自分の乗り物が要るんだ」。「バイクを買えばいいじゃない」(3枚目の写真)「ここに来る途中のバイク屋で、父さんが前に乗ってたのとそっくりな奴 売ってたよ」。
  
  
  

ジャイムが、「新聞買って来たよ。求人広告が載ってる」と言うと、「何のために? 卒業証書がないと、どうにもならん」と、折角の好意も意に介さない。「お前の母さんは?」。ジャイムは 「元気だよ。父さんに、“キスを” だって」と嘘を付く。しかし、別れた妻のことをよく知っている父は、「お前が、ここに来るってあいつに言ったら、きっと怒鳴られただろうな」と言う。「ううん。学校が終わってから寄るって話したら、文句言わなかったよ。長居するなって、言われただけ」。「あいつが そんなこと言うハズがない」。「言ったよ!」。「あいつは、俺がいることすら覚えてない」(1枚目の写真)。こうした会話をしながら、ジャイムは、父のためにコーヒーを入れている。そして、出て行く前にタバコを1箱プレゼントする。外に出て行ったジャイムは、父がどうするか ドアに開いた穴からこっそり窺う(2枚目の舎写真)。すると、父はまたベッドに横になってしまった(3枚目の写真)。ヨットクラブ云々も、嘘だった。ジャイムはがっかりする。
  
  
  

次のシーンは学校。ただ、ジャイムが父の倉庫に行った時、10時と言っていたので、かなり遅刻したことになる。教室での場面は、授業中寝ていたジャイムの机の上に、教師が重い本を落とし(1枚目の写真、矢印)、その音にびっくりしたジャイムが パッと身を起こす場面から始まる。「いい夢でも見ていたの?」。ジャイムは、平気で明らかな嘘を付く。「眠ってません」。生徒達が笑う。「じゃあ、何してたの?」。「聞いてました」。生徒達がまた笑う。「目を閉じて?」。「その方が、よく聞き取れます」。生徒達がもっと笑う。教師は、それ以上ジャイムに構うのをやめ、もう1人、机に頭を付けて寝ている子の方にそっと近づく。そして、今度は、被っていた帽子をつかむと(3枚目の写真、矢印)、机に叩き付ける。ここで初めて登場したウリースも、ジャイムのようにパッと身を起こし、寝ぼけて、「僕じゃないよ、教えて」と、トンチンカンなことを言い(4枚目の写真)、生徒達が笑う。その後、教師が2人に何を言ったのかは、カットされているので分からない。
  
  
  
  

休憩時間になると、ウリースは目立たない壁の裏に行き、口にタバコをくわえる。それを見たジャイムは、「タバコなんか吸うな」と注意する。ウリースは 「僕は、エイズだ」と言うが、冗談か、嘘か、本当かは分からないし、その後の展開に全く無関係。「どうだっていい。僕は、タバコなんか吸わない」。そう言うと、ジャイムはウリースを小便に誘い、「君が働いてるトコで、僕に仕事ないかな?」と訊く。「僕が働いてるって、誰が言った?」。「働いてなきゃ、授業中にいびきなんかかかない」。「遅くまでTV観てたからさ」。「まじめになれよ。仕事、見つけてくれるか?」。「なんで、しなきゃならん? 友だちでもないのに。何の得がある?」。「先生に内緒にしてやる。君の年じゃ、違法行為だ」(1枚目の写真)。「君は、僕より1つ年上だけじゃないか」。「だけど、もっと年上に見えるだろ」。そう話しながら壁から出ようとして、校庭を一瞬見たウリースが、「ちくしょう!」と言う。「あれ、誰なんだ?」。「労働監督官だ」(2枚目の写真)。「おまわり?」。「子供に仕事させないための “おまわり” なんだ」。ヤバいと思ったジャイムは、学校の裏のコンクリート塀を登って逃げようとする。ウリースも一緒に付いて行くが、小さくて登れないので、ジャイムが手助けする(3枚目の写真)。
  
  
  

その日の夜、ジャイムは こっそりアパートを抜け出す。その後、男が運転するバンの助手席に座っている。恐らく、ウリースに紹介されたのだろうが、台詞が皆無なので、よく分からない。その後、男は1軒の家のドアをノックする。大きな箱を抱えた別の男が、時計を見ながらドアを開け、「もう来のか? 2時だと聞いてたぞ」と文句を言う。「時間なんて聞いとらん。電車じゃあるまいし、時刻表なんかないんだ。俺は、来られる時に来る。2000個だよな?」。「そうだが、ちゃんと2時だと聞いたんだ」。「時間なんかどうだっていい。物はちゃんとあるのか?」。「あと30分。長くても45分」。「30分だ? 今夜は3ヶ所回るんだぞ!」。「でも、2時だと…」。「分かった。あるだけ持っていく。後でボスに謝っとくんだな」。「ひどいじゃないか。また罰金だ」。男は、ジャイムに命じて、Yシャツの小箱の詰まった大箱をバンに運ばせる。家の中では、深夜1時過ぎだというのに、小さな子が3人、Yシャツ作りの作業に追われている。1人の子が、「ママ、眠いよ」と訴えると、父が 「うるさい!」と怒鳴る。母が 「疲れてるのよ」と取りなすと、「お前の意見なんか聞いとらん!」と叱り飛ばす(1枚目の写真)〔家庭内の児童労働の悲惨な実態〕。場面はがらりと変わり、数10台のミシンがずらりと並び、若い女性が働いている。その中を、ジャイムは会計ノートに何か書きながら、ウリースは現金を数えながら歩いている。ウリース:「幾ら稼いだ?」。「君に関係あるのか?」(2枚目の写真)。「そうカリカリすんな。君の金が欲しいワケじゃない。僕が幾ら稼いだか、知りたくないんか?」。「ぜんぜん」。翌朝、いつものように妹2人を託児所に運び終わった母子が歩いていると、肉屋のおやじと店の前で会ったので、母は、「おはよう、テオフィロさん。あした、払うわ」と、実にそっけない態度で言う。ジャイムの母に好意を持っている優しい肉屋は、「構いませんよ」と声を掛けるが、傲慢な母は返事すらしない。その先で、母は、ジャイムと別れ際に、「さあ、学校に行って」と声をかけるが、ジャイムが向かった先は学校ではなくゴルフ場。ウリースと一緒に、キャディとして働く。ラウンドを回り終えてお金をもらった後で、2人は、クラブハウスの屋外テーブルに座り(3枚目の写真)、ジャイムはいつものように会計ノートに記帳。その時、1人の女性がジャイムに、「君、空いてる?」と キャディを頼むが、ジャイムは断る。代わりに、ウリースが、「僕、やるよ!」と立ち上がる。「重いの持てるの?」。「平気だよ」。
  
  
  

1人になったジャイムの所に、ウェイターがやって来て、「ここで何してる。ここに座っちゃダメだ」と注意する。ジャイムは、「どうして? 僕、他の人と違うの?」と訊く(1枚目の写真)。ちょうどそこにやって来たのが、いわゆる “本当のボス”。ウェイター:「もちろん、違う」。そこに、ボスが割り込む。「その子は、私と一緒だ」。そして、「ちょうど オレンジ・ジュース持ってるじゃないか」と言うと、ウェイターの盆からジュースを取り上げて ジャイムの前に置く。そして、ウェイターに、「まだ、何か用かね?」と訊く。「いいえ、ガルセーシュ様」。これが、ジャイムとガルセーシュの偶然の出会い。ガルセーシュは、ウリースが座っていた席に座ると、「奴は正しい。君には ここに座る権利はない」と静かに言う。ジャイムは、お礼も言わず、「あなたは?」と 生意気な質問をする(2枚目の写真)。しかし、ガルセーシュは、怒るでもなく、「君は、才気煥発だな。我々が似てると思ってるんじゃないか? だが、それは間違いだ。我々は違う。私は、他人のキャリーバッグなど持ったことはない。だが、似ているところもある。私も ここにいる権利はない。敢えて誰も指摘しないがな」と言うと、先ほどのウェイターを呼び、「なあ、私にはここに座る権利がないと言ってもらえるか?」と訊く。「もちろん、言えません、ガルセーシュ様」。ガルセーシュは、「正しい返事に」と言い、ウェイターに多目のチップを渡す。そして、ジャイムに向かって、「ここに座る権利がないのに、気にも留めない すべての人に乾杯だ」と言う(3枚目の写真)。ジャイムが、この風変わりな男に魅せられたのは、言うまでもない。
  
  
  

翌朝、始業ベルが響く中、ジャイムが口笛を吹きながら塀を回って中に入ろうとすると、内庭では ウリースが労働監督官と話していて、その視線が ジャイムを捉える(1枚目の写真)。ジャイムは見られたことに気付き(2枚目の写真)、すぐに走って逃げる。それから どのくらい時間が経過したかは不明だが、ジャイムが会計ノートに書き込みながら歩いていると〔ということは、何か仕事をしたことになる〕、さっきの労働監督官が道路端の店でアイスクリームを買っていて、ジャイムに気付く(3枚目の写真、矢印)。ジャイムも相手に気付き、すぐに横のビルを貫通する狭いアーケードに逃げ込む。この場所は、先に紹介したコデサルの階段の下、ドウロ川沿いに走るリベイラの河岸道〔Cais da Ribeira〕(4枚目のグーグル・ストリートビュー参照)。3枚目の写真では街なかの道のように見えるが、左側はドウロ川だ。そして、ジャイムが逃げ込んだアーケードは矢印の先。しかし、実は、ここはアーケードではなく、5枚目のグーグル・ストリートビューのように、単なるゲートで、その奥に小広場と階段が続いている。
  
  
  
  
  

しかし、敵も然(さ)る者、アーケードの出口で待ち構えていた〔先ほど入った “アーケード” の出口で待っていたとしたら、「直線より迂回路の方が速い」という矛盾が生じるのだが、実際には、前節で紹介したように、“ゲート” の先は複雑な経路になっているので、労働監督官が先回りしていてもおかしくはない〕。労働監督官は、「悪いな」と言うと、ジャイムを一緒に歩かせ、「君は、私を見て、あまり嬉しそうじゃなかったな」と訊く。「僕が、何で? あんたのこと、知りもしないのに」。「知らんだと? なら、今朝なぜ逃げたんだ?」。「逃げた? 誰が?」。「君だ。今朝、学校で私を見た時、なぜ逃げた?」。「今朝、学校には行ってない」〔ジャイムは、いつも平然と嘘を付く〕。「なかなか やるな。分かった、自己紹介といこう。私はコルーナ。労働監督官だ。これで知り合いだな」(2枚目の写真)「あっちで話そう」。「時間がないよ。家に帰らないと」。「数分で済む」。そして連れて行ったのが、ジャイムが逃げ込んだ “ゲート” の150m上流にあるドン・ルイス1世橋のたもと。労働監督官のコルーナは、単刀直入に 「工場はどこだ?」と訊く(3枚目の写真)。「工場なんかないよ。言っただろ。働いてなんかないんだ!」。「君の友だちのウリースの話と違うな」。「第一に、あいつは友だちじゃない。それに、あいつはひどい嘘付きだ」〔ウリースは結構正直〕。「そうか? なら指を失ったルイスはどうなんだ?」〔結構、調べがついている〕「彼も、嘘付きなのか?」。「ルイスなんか知らないよ」。「何てしぶといチビ助なんだ。心配するな。君を罰する気などない。君は犠牲者なんだ。私は、君を搾取している悪人を追いかけてるだけなんだ。約束する。そいつの名前を言ったら、二度と君を煩わせん」。それでも、ジャイムは あくまで否定する。「あなたが言ったようなこと、誰も僕にさせてないよ。第一、僕は働いてないし、働いたこともないんだ」。それを聞いたコルーナは、相手の強情さに舌を巻き、「24時間やろう。明日、もう一度訊く。もし、君が答えなかったら、お母さんに訊きに行くぞ」と脅す。「そんな権利、ないよ」。「あるんだな。不公平かもしれんが、あるんだ」。因みに、この場所の全景を4枚目の写真(グーグル・ストリートビュー)に示す。世界遺産のドン・ルイス1世橋は、上下2段になった珍しい橋。ポルトの街は、ドウロ川の両側に広がる丘陵上に発達していて、両岸の丘陵同士を結ぶ交通がメイン。しかし、河岸沿いの交通需要にも対応しているため、2段構造になった。造られた当時は2段とも道路橋だったが〔映画の製作時も〕、2005年に開通したポルトメトロD号線を通すため、上段をポルトメトロと歩行者の専用道に変更した。
  
  
  
  

ジャイムは、走ってウリースのアパートまで行く。部屋にいたのは子供達だけで、「ウリースいる?」と訊くと、「寝室」と教えられる〔子供全員の共同寝室で、ウリースだけの部屋ではない〕。ジャイムはベッドに横になっているウリースに掴みかかると、「この野郎、おまわりに何 言いやがった?」と問い詰める。「何も。何だよ急に! 何も話してない!」。「嘘付くな! 何を話した?」。「何も話してない。やめろよ、痛いじゃないか!」。ジャイムは、「嘘だ! このクソチビ!」と罵倒して、ウリースの顔を引っ叩き、鼻血が出る。ウリースも怒って、「こんなことしやがって、このクソッタレ!」と怒鳴り、ジャイムを突き飛ばす。ジャイム:「なんで仕事のことを話した、このバカ野郎?」。ウリース:「少年院に入れるって脅されたからだ」。「それを信じたのか?」。「だけど、工場がどこにあるかは話してない」。これで、ジャイムの怒りは半分収まり、鼻血を出させたことを心配する。それでも、「もし、コルーナが、母さんに、僕が働いてるって話したら、鼻血ぐらいじゃ済まないぞ」とも言う。「母ちゃん、知らないんか?」(1枚目の写真)「なら、なぜ働いてる」〔ウリースは、母の命令で働いている〕。「君には関係ない」。「じゃあ、コルーナに、全部嘘だったって言おうか?」。「もう遅すぎる」。そこを出たジャイムは、母が店員として働いているスーパーに行く。入口のレジ係は、母が、上司とコーヒーを飲みに行って、戻って来たところだと教える。確かに、母は上司と “男女” として、仲良さそうにしている〔男漁りのことしか考えない母親〕。母は、ジャイムに気付くと、上司から離れ、如何にも母親らしくジャイムにキスする。ジャイムが、「なぜ あの男とキスしてたの?」と訊くと(2枚目の写真)、「なんとなく。同僚だから、さよなら言っただけ」と嘘を付く。「同僚じゃない、上司だ」。「そんなんことない。まだ同僚よ」。「僕、あいつ嫌いだ」。母は 「ハンサムだから? 妬かないの」と言って、はぐらかす。そしてアパートの夜。母の寝室からは、ブラジル人と愛し合っている音が聞こえてくる〔最悪の環境〕。それを聞きながら、ジャイムは、服を羽織って、また深夜の仕事に出かけて行く(3枚目の写真)。
  
  
  

ジャイムが行った先は、以前、数10台のミシンがずらりと並び、若い女性が働いていた工場。ところが、薄暗い工場内にミシンは1台もない(1枚目の写真)。ジャイムが、「みんなはどこ? ミシンはどこ?」と訊くと、「お前には関係ない。あっちの箱を、さっさと運ぶんだ」と言われただけ。先に来ていたウリースが、「あいつ、全部、闇市場で売るつもりだ」とジャイムに教える〔“あいつ” とは、ジャイムをバンで工場まで連れてきた男ではなく、その上のボス〕〔売るのは ミシンではなく、未出荷のYシャツ。先の家族労働との関係は不明〕。「だから?」。「あいつには そんな権限はない。あいつがお金を借りてる人たちの物だから」。「それがどうした? 僕たち、仕事がなくなるんだ。そっちの方が問題だ」。ボスの赤い乗用車を先頭に、Yシャツを満載したバンが3台続く。工場の柵の前では、職を失った女性達が抗議の声を挙げている〔破産による給料未払い?〕。通りで各待ちをしている娼婦の一群の前を通ると、2人を乗せたバンの運転手が、「娼婦だけは 何があっても失業せん。俺がクビになったら、ドラァグクイーン〔女装した男性〕にならんとな」と言い、2人を笑わせる(2枚目の写真)。4台の車は、大きな車庫の中に入って行き、中で番をしていた老人が、「箱を1個ずつ下ろしてくれ。すべて数えたい」と要求する。そして、朝が来て、アウディS6が入ってくる。ジャイムとウリースは、バンの後部ドアを開けたまま、疲れて眠っている(3枚目の写真)。
  
  
  

アウディから降りてきたのは、ジャイムがゴルフ場で会ったガルセーシュだった。老人は、ガルセーシュの部下らしく、「物は届きましたが、足りない箱があります」と報告する。それを、目を覚ました2人が 何事かと見ている(1枚目の写真)。ガルセーシュは、Yシャツ工場のボスと握手した後、大箱からYシャツ1個が入った小箱を取り出して中身を見る。「仕上がりが雑だし、箱が幾つか足りん」(2枚目の写真、矢印はYシャツの小箱)。ボスは、「そんなことはあり得ん。そいつの数え間違いだ」と、欠品の方は否定する。「私の部下は間違えん」。「私も忙しい。取引するのか、しないのか?」。ガルセーシュは現金の詰まったスーツケースを見せ、金額を紙に書く。その金額を見たボスは、「冗談だろ? 物は、少なくともその5倍の値打ちはある」と文句を言うが、それを聞くが早いか、ガルセーシュは金額を書いた紙をくしゃくしゃに丸めて投げ捨て、老人に、「行くぞ」と声をかける。それを見たボスは、諦めて取引に同意する。ボスは、ジャイムとウリースに、車庫の大きな滑り戸を開けさせる。その時、ジャイムに気付いたガルセーシュが、腕をとって自分の方を向かせる。「まだ、他人の荷物を運んでるのか、坊主?」(3枚目の写真)。そう言うと、奥の鉄製の螺旋階段を登って行く。
  
  
  

ジャイムがアパートに帰ると、母が怖い顔で待っていた。「今まで どこにいたの?」(1枚目の写真)。「もう、起きてたの?」。「聞いてなかったの? どこにいたの?」。ジャイムは、手に持ったパンの袋を開けながら、「パンを買いに」と アリバイを主張するが、母は、「嘘よ! 1時間以上前に起きたけど、あんたベッドにいなかった」。「なんで こんな早くに起きたの?」。答えをはぐらかそうとする息子に、母は、「どこにいたの?!」と強く訊く。「僕は… その…」。ここで、ジャイムはいいことを思いつく。「父さんに会いに行き、そのまま家にいたんだ。バイクを修理するのを手伝ってたから」。「バイク? 盗まれたんじゃなかったの?」。「そうだけど、見つかったんだ」(2枚目の写真)「すごく壊れてたから、手伝ってくれって頼まれて」。「真夜中に?」。「今朝、要るから。新しい仕事のためだよ。話さなかった?」〔次から次に 口をついて嘘が出てくる〕。「なぜ、そう言わなかったの?」。「もし、話したら、行かせてくれなかったから」。この話をすっかり信じてしまった母は、「二度としないで、すごく心配したのよ」と ジャイムを抱きしめる。「泣かないで、ここにいるじゃない」。しかし、その次の母の態度は、ジャイムの嘘と同じくらい罪の重いものだった。「泣いてるのは、あんたのせいじゃない」。「じゃあ、どうして?」。ジャイムは、すぐに察しがつく。「ブラジル人のせいだ」(3枚目の写真)「帰って来なかったんだ。言っただろ、あいつはロクデナシだって」。「きっと、理由があるのよ」。「そうさ。他の女とか」。「そんなこと 言わないの」。「父さんは、そんなことしなかったのに」。「その逆よ」。「なぜ、また一緒に暮らさないの?」。
  
  
  

その質問と同時に、ドアが開いてブラジル人アントニオが顔を見せる。アントニオは、自慢そうに歌いながら、お札を2束取り出して見せ、テーブルの上に投げる。そして、母を抱きしめようとするが、泣いていた母の態度は一変し、「そのお金、どこで手に入れたの?」と 強い調子で訊く。「手品さ。見てなかったのか?」。「何か、バカやらかしたのね?」。酔っ払ったアントニオは、母に無理矢理キスしようとする(1枚目の写真)。それを見たジャイムは、がっかりする(2枚目の写真)。母は、ジャイムに妹を起こしてくるように言い、アントニオにも、「ほら、出てって」と追い払おうとするが、ジャイムは 「行きたい時に行く」と 突っぱねる。アントニオが、母の胸にキスしようとした時、開いたままのドアの向こうから肉屋の主人が それを見てつまづいて転ぶ。「そこで何してるの?」。「悪かった。邪魔する気は…」。それを見たアントニオは、肉屋に 「そこにいて」と、入って来ないよう指示する。それを見た母は、アントニオが好きで戻ったのではなく、肉屋に頼まれて来ただけだと悟る。だから、アントニオが、「彼は、お前と話がしたいそうだ」と言うと、「出てけ、このロクデナシ!」と、紙を丸めてアントニオに投げつける。「お前を、肉屋のレジ係にしたいんだそうだ」(3枚目の写真)。頭に来た母は、アントニオを追い出す。
  
  
  

ジャイムは、橋を走って渡ると、父の倉庫に行く(1枚目の写真)。父は 「お前か。俺は、今出るトコだ。約束がある」と言う。「仕事なの?」。「仕事じゃない。コスタのボートの修理を手伝ってるんだ」。「一緒に行っていい?」。「いいや。だが、ここにいるのは構わんぞ」。「ちょっと話がしたかっただけさ」。「何だ?」。「母さんと、例の男の関係、終わったよ」。父は、その話に全く興味を示さない。そこで、ジャイムは、「なぜ、戻って来てくれって、母さんに頼まないの?」と訊く。「あいつは、望んじゃいない」。「望んでるさ。ブラジル野郎なんかより、父さんの方がうんといいって、母さんも分かったハズだ。なぜ、試してみないの?」(2枚目の写真)。「笑われるのがイヤなんだ」。「そんなことない」。ここで、父の堪忍袋の緒が切れる。「黙れ!! 干渉するな!!」。そう怒鳴ると、ジャイムを置いて出て行ってしまう。ジャイムは、父のベッドに横になり、タバコを吸い(3枚目の写真)、自分がまだ1~2歳だった頃に両親と一緒に撮った写真を見ながら、涙を流す。
  
  
  

ジャイムがアパートに戻ると、そこには、追い出されたハズのアントニオが、ビールを飲みながらTVを見て笑っている。そして、ジャイムが玩具の赤い車に隠しておいた札束を見せ、「これ、見つけたぞ」と言う(1枚目の写真、矢印)。ジャイムが、取り上げようとしても、「どこで手に入れた? このクソガキ」と言うだけで 返そうとしない。「お前になんか関係ない。稼いだんだ。返せ!」。「ホントか? 2万エスクードも? どうやって稼いだ? オカマにフェラでもしたのか?」。そう言うなり、ジャイムの左手を締め上げ、「ちょっとくらい、敬意を払ったらどうだ」と、およそバカげたことを言う。ジャイムは、「放せ、このクソ野郎!! 僕のお金を返せ!!」と怒鳴る。「俺だったら、この金のことは黙ってるぞ。もともと、なかったんだ」。ここで、手を放されたジャイムは、「この、クソ泥棒!! 母さんに言いつけてやる!!」と叫ぶと(3枚目の写真)、アパートを飛び出して行く。
  
  
  

ジャイムは市電に乗って母のスーパーまで直行する。そして、母が上司のバイクに乗って出かけるところを目撃し、母の “男漁り” の浅ましさに呆れる。ジャイムは、アパートにすぐ戻り〔アントニオは さっさと逃げ出して もういない〕、母の寝室に行き、クローゼットから次々とアントニオの服を出しては、ソファの上に放り投げている。ボーイフレンドと遊んでいて、遅れて帰ってきた母が、それを見てびっくりする(1枚目の写真、矢印はすべて服)。「何してるの? アントニオの服よ」。「お金を返させるんだ」。「何のお金?」。「あいつが 僕から盗んだお金だ!」(2枚目の写真)「2万エスクード、あいつに盗まれた」。「どこで そんなお金 手に入れたの?」。「父さんが くれたんだ」。そんなことはあり得ないので、自分もひどい母親のくせに、この女は、「嘘つき!」とジャイムをなじり、頬を引っ叩く。「アントニオを貶める作り話には もうウンザリ!! 全部、元に戻しなさい!」。これで、ジャイムも切れる。「戻すもんか! あんたは、僕なんかどうでもよくて、あいつだけが好きなんだ!! 下劣な泥棒なのに!!」。「今すぐ黙って、デオリンダんトコで1時間も待ってる2人を連れてきなさい!」。「バイクで遊んでる間に、自分で行けばよかったんだ! 僕は、あんたのメイドじゃない! 自分で行けよ!」。ジャイムは、こう怒鳴ると、母を突き飛ばし、アパートから出て行く。向かった先は、ドン・ルイス1世橋の上段の道路橋の高さの崖の上。意味のなくなった会計ノートを、「クソ泥棒め。いつか ツケを払わせてやる」と言いながら破り捨てる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

その夜、ジャイムは 多くの人が釣りをしているドウロ河岸沿いに走り、父の姿を見つけて横に座る。「やあ、父さん」。「どうした?」。「父さんのトコに泊っていい?」(1枚目の写真)。「お前の母さんは知ってるのか?」。「うん。どうだっていいんだ」。「どうした? お前が何かやって、怒鳴られたんだな?」。「違うよ。他の奴のせいさ。泊っていい? 1日か2日」〔父も、ジャイムの嘘に振り回され、あとで大変なことになる〕。翌日 ジャイムがキャディをしていると、ウリースがやって来て、「今朝、君の母ちゃんが 先生に会いに来たぞ」と告げ、キャディが終わったら、丘で待っていると言ってくれる。次のシーンは、その丘での2人の会話。「母さんが、何だって?」。「君を探してた。心配してたぞ。家出したんか?」。「先生は?」。「おまわりのトコに行けってさ」。「母さんは、何て言った?」。「まだ、行く気はないって」(2枚目の写真)。真面目なウリースは、「家に帰らないの? 学校は? もし、先生が君を見たら、母ちゃんがおまわりに話すぞ」と心配する(3枚目の写真)。「だから、学校へはもう行かない」。「ホントに?」。「建設現場で仕事見つけないと」。「いい考えがある。僕らみたいな子供に仕事を探してくれるおばあちゃんだ。上前を はねられるけど」。
  
  
  

2人は、その後 おばあさんに会いに行くが、部屋に入ったところで終わるので、どうなったのかは分からない。次のシーンでは、おばあさんの紹介ではなく、ジャイムの勝手な判断で、ガルセーシュに出会った大きな車庫に入って行く。すると、前に Yシャツの箱を数えていた部下の老人が、ガルセーシュのスポーツカーを洗車している。ジャイムは、「ボス、いる?」と訊く。「お前さんみたいなガキが 何の用だ?」。「あんたに関係ない」。「そうか、いないぞ。ここは、ただの車庫だ。仕事が欲しくて来たんなら、ガキに用はない」。「そんなんじゃない。それに、僕の名前は “ガキ” じゃない」。ジャイムは、一介の老人の使用人なんか 屁とも思っていない。その時、ガルセーシュが姿を見せ 「用意できたか?」と 老人に声をかける。さらに、ジャイムを見ると、「運び屋じゃないか。ここで、何してる?」と訊く。老人が、ボスがいないと言ったのは嘘だった。ジャイム:「取引があるんだけど」。ガルセーシュ:「君と遊んでる暇なんかあると思うのか?」。「嘘じゃない! ちゃんとしたビジネスだよ」。それを聞き、元々ジャイムに好意的なガルセーシュは、ジャイムを2階のオフィスの入口まで連れて行く。ジャイムは、先ほどのおばあさんのところの先客が、アンタス〔ポルトの北約50キロ〕にあるピントの靴工場の労働者が全員解雇されたと訴え、おばあさんが、「破産くさいわね」と言ったのを偶然耳に挟んでいた。そこで、「靴の工場が破産する」とガルセーシュに話す。ガルセーシュは、「スポーツシューズ? それとも普通の靴?」と訊くが、ジャイムには答えられない。そこで、「何も知らないんだな」と批判する。それでも、ジャイムはあくまでも強気。「知ってるじゃない、靴の工場だって。興味があるの、ないの? ないんなら、他所に行くけど」(1枚目の写真)。それを聞いたガルセーシュは、一歩譲り、ジャイムを部屋に入れる。「どこの工場だ?」。「幾らくれるの?」。この大胆不敵な問いに、ガルセーシュは、①ビジネスに必要な具体的なことを何も知らない、②実力がないのに強がっている、③自分が怒ったら ジャイムなんかバラバラになる、と指摘し、「どこだ?」と訊く。「アンタス」。「そこにあるのは、ピントの工場だけだ」。「そう、ピント」。「ピント… 奴が破産するのか? どこで聞いた?」。「幾らくれるの?」(2枚目の写真)。ガルセーシュは、「行くぞ」と言うが、それからどうなったのかは分からない。
  
  

ジャイムは、父の倉庫のドアの鍵を開けると、ドアの中の1枚の紙が置かれていた。それは、母が、離縁した夫宛に書いた強い調子の通告で、「アベル、24時間以内にジャイムを返さなかったら 警察に行くわ。本気よ。判事が、子供たちの親権を私に与えたことを忘れないで。そんな豚小屋みたいな所に息子を住まわせて、よく恥かしくないわね。それと、スーパーで私を監視しないで。マルタ」(1枚目の写真)〔ジャイムのせいで、父が誤解を受けている〕。ジャイムは、恐らく通告文は破棄し、河岸にいる父に会いに行く。そして、自分のせいで “大きな問題” が起きてしまったことは伏せ、「母さんが、僕を港に連れてって、父さんが巨大なタンカーを造ってるのを見た時のこと、覚えてる? 母さん すごく感心してた」と話す(2枚目の写真)。「あれは日本の船で、デッキを造り直してたんだ。俺の最後の仕事だったな」。2人が、釣り上げた魚の入った箱を持って歩いていると、そこに母がすたすたと歩み寄り、いきなりジャイムを奪い取ったので、魚が地面に散乱する。そんなことにはお構いなく、母は 「帰るわよ」とジャイムを引っ張って行こうとするが、ジャイムは 「帰るもんか! 嫌だ!」と反撥。母も 「どう思おうが関係ない。私が仕切るの。来なさい!」と強硬。ジャイムは、ますます反撥する。「勝手にさせるもんか。僕は、父さんと一緒に暮らしたい!!」と大声で言う。父は 「声が大きい」とジャイムに注意し、次いで、傲慢な元妻に 「中で話そう。みんなが見てる」と 穏やかに言うが、元妻は 「そんなの平気よ。みんな あんたの悪だくみね。このロクデナシ!!」と怒鳴る。さらに、「むかつくわね! 吐き気がする! 自分の息子を、自分のために働かせて、恥ずかしくないの?!」とも〔息子の前で、ロクデナシのブラジル人と平気でセックスするような “ふしだら” 極まる母が、よく言えたものだ〕。しかし、覇気がなく、人生の敗残者の父は、「何を言ってる。そんなの間違いだ」と、一方的な非難に対して、弱々しく反論する。ジャイムは、自分の嘘の集積が作り上げた “父=悪者” 像を叩き潰そうと、母を思いきり罵倒する。「やめろ! 父さんは、何の関係もない! 一緒に帰るもんか! あんたなんか、大嫌いだ!!」(3枚目の写真)。そして、走り去る。
  
  
  

その夜、ジャイムが父の倉庫に行くと、父は首を吊って死んでいた(1枚目の写真)〔すべての責任は ジャイムにある〕。次のシーンは、いきなり墓地。墓穴の中に置かれた父の棺に、ジャイムは、いつも身に着けていた父の倉庫の鍵を取り出し(2枚目の写真、矢印)、棺の上に投げる。3枚目の写真は、埋葬時の全景。立ち会っているのは、ジャイム(矢印)だけだ。何と わびしい ”人生の最後” なのだろう。
  
  
  

埋葬の直後のシーンにしては、違和感があるが、ジャイムがウリースに誘われて1軒の豪邸の庭に侵入する。ジャイムは石でドアのガラスを割り、中のフック錠を簡単に外し、「ホントに 誰もいないんだな?」とウリースに確認する〔普通なら、ガラスを割る前に訊くべきだと思うが…〕。「絶対ホントだよ」。ジャイムは照明の点いた室内の飛び込んで行くと、室内バーから酒瓶を2本持って 戻って来る。そして、2人はプールサイドに座ると、酒を飲み始める。ウリースが選んだ方は失敗。「ひどいや。猫のおしっこみたいに苦い。そっちは? 味見させろよ」(1枚目の写真)。「諦めな。すごく旨い。こっちを選ぶべきだったな」。「意地悪言わずに、一口くれよ」。ジャイムは 「むかつくな。自分で取って来いよ」と言うなり、ウリースをプールに突き落とす。ウリースは、泳げないと必死になるが、ジャイムは、「そこはガキのプールだ」と 水深が浅いと指摘する〔なぜ、知っているのだろう?〕。バタバタするのを止めたウリースは、仕返しに、ジャイムの脚を引っ張ってプールに落とし、逆に自分は這い上がる。そして、事もあろうに 服を脱ぎ始める。それに気付いたジャイムは、「人の前でそんなことするなんて、恥ずかしくないのか? なんて不格好なんだ」と批判する。ウリースは、「ぼくの おちんちんも不格好か?」と訊く(2枚目の写真)。「ちっちゃな芋虫だな」。「じゃあ、なんでオカマの奴、触るだけで1000エスクードくれたんだ?」。「そんなこと、させたんか?」。「もちろん、1000エスクードのためなら、何だってする」。「何て奴だ。このホモ野郎」。「僕が? どうして? 触っただけだぞ」〔お金を稼ぐためなら何をしても平気な悲しさ〕。ウリースは、蔑まれた仕返しに、「今から君をあったかくしてやるぞ」と言い、ジャイム目がけて小便をかける(3枚目の写真、矢印)。「くそったれ! 止めろ! 何て奴だ!」。「シャワーみたいだろ」。ジャイムは、急いでプールから上がると、残ったお酒をラッパ飲みし、「父さんが死んだ」と打ち明ける。ウリースは驚くと同時に、自分のしたことを恥じる。そして、背中に触りながら、「よけりゃ、僕んちに来いよ」と声をかける(4枚目の写真)。ジャイムは、「みんな あのアバズレのせいだ」と言う。「どのアバズレ?」。「面と向かって、父さんを殺したんだと言ってやる!」。「ムチャすんな。一緒に行ってやる」。
  
  
  
  

ジャイムは、母のアパートに行くが、そこにはなぜかブラジル人がいただけで、母はどこにもいなかった〔なぜ、ブラジル人がいるのだろう?〕。この訳の分からないシーンの後は、翌日。恐らく 先のおばあさんの紹介で、ジャイムとウリースは、他の少年と一緒に建設現場で働いている。必要な技術など持っていないので、両手に持ったバケツで土を運ぶだけの力仕事。小柄なウリースには辛い作業で、体の大きなジャイムと もう1人の少年より遅れてしまう(1枚目の写真)。ジャイムから、「遅いぞ」と文句を言われると、「仕方ない。ナイキのせいだ」と言い訳をする〔ワンサイズ大きいナイキを履いている〕。「なら、脱いじまえ」。そこで、ウリースは本当にナイキを脱いでしまう。作業員の一人の携帯に電話がかかってきて、ナイキを脱ぎ終えたウリースに、「あとの2人を連れて来い」と命じる。そして、黒人の作業員に、「めんどくせえ労働監督官がまた来やがる。ガキどもをトレンチ〔長く深い溝〕に隠せ」と命じる。3人は急いで駆け下りる(2枚目の写真、ウリースは木の仮設通路の上を降りる時は裸足⇒ナイキは仮設通路の端に隠した)。3人は、トレンチの中に長く放置される。異常事態に最初に気付いたのは、ウリース。「何も聞こえない」。ジャイム:「ホントだ。音がしない」。もう1人の少年:「作業が終わったんだ」。ウリース:「僕たち、出してもらえるんだよね?」。それを聞いたジャイムは、「行かないで! まだ、ここに残ってるよ!」と叫ぶ(3枚目の写真)。ジャイムに促されて他の2人も叫ぶが、作業員は全員引き揚げた後なので、返事はない。
  
  
  

そのまま夜になり、雷による土砂降りの雨の中、3人はトレンチの中で一夜を過ごすはめに(1枚目の写真)。翌朝、トレンチにコンクリートを流し込もうとして、3人の存在に気付く。「止めろ!! ガキどもがいる!! 黒んぼ野郎が、忘れちまったんだ!」。労働監督官のコルーナが、建設現場の外に車を停めて見張っている。そこに、3人が姿を見せる。ウリースは、「ジャイム、危ない、コルーナだ」と言い(2枚目の写真)、走って逃げ出すが、ジャイムは逆にコルーナの前に行き、「今度は 何の用?」と訊く。「昨夜は どこに隠されたんだ?」(3枚目の写真)。そして、ジャイムの頬の泥を見て、「泥にでも埋められたのか?」と 的確な質問。ジャイムは、いつもの調子で 「何のコト話してるのか、分んないよ」と返事。「一緒に来い」。「どこへ?」。「来れば分かる」。「歩く方が好きだ」。「私をバカにするのは止めろ。働いてないのなら、あの中で何をしてた?」。「遊んでた」。「なら、一緒にいた友だちは、なぜ逃げたんだ?」。「おまわりだと思ったからだろ」。
  
  
  

結局、ジャイムは車に乗せられ、連れて行かれた先は 何と靴磨き屋。「座れ」。「スニーカーに靴墨は塗れないよ」(1枚目の写真)。靴磨きは、「きれいにはできる」と言い、座らせる。こうして、コルーナとジャイムが並んで座る。コルーナは、ジャイムに、自分の靴を磨いている男は、建設現場で働いていたと話す。男は16年間煉瓦工として働き、1年5ヶ月前に職を失った。コルーナは、すべてを承知の上で、ジャイムに聞かせるため、男が職を失った後、誰がそれを引き継いだかを言わせる。答えは、息子が継いだというもの。男:「もし、息子が継がなかったら、私らには何も食べるものがなかったでしょう」〔息子は、ジャイムと同じくらいの年齢だった〕。それを受けて、コルーナは、「あんたの職は、他の子が継いでたかもしれんな。例えば、ジャイムが」と言ったので、ジャイムは、「僕は、誰の職も奪わない。僕に構うなよ! もう うんざりだ!!」と食ってかかる(2枚目の写真)。それに対し、コルーナは、初めて激しい言葉を使う。「お前に何が分かる、この たわけ。これまで、お前が、お父さんのような奴の仕事を奪わなかったと、どうして分かる?」。「そんなことしてない!」。「お前が、お父さんの年になった時、お前みたいなスマートな奴に、職を継がせるクソが必ずいる。その時、お前はどうする? この男みたいに靴を磨くか? お父さんみたいに首を吊るか?」(3枚目の写真)「イキがるのはやめ、学校に戻れ。お母さんのところにもな。お前を探してたぞ。警察にも行った」。それだけ言うと、「失せろ。お前にはもう うんざりだ。ここから出てけ」と、店を追い出す。ジャイムは 学校の前は素通りし、ウリースの部屋に行く。そして、コルーナの批判をしていると、そこにウリースの母が入って来て、ウリースに、「ここで何してるの?」と、咎めるように訊く。「なぜ、働いてないの?」。「休みをくれたんだ」。「何をしでかしたの? またクビになったの?」。「何もしてないよ。建設現場のトレンチに一晩放っておかれたんだ」(4枚目の写真)。「その子、誰?」、「ジャイム。僕に会いに立ち寄ったんだ」。「今の仕事を大事になさい。給料なしじゃ、生きていけないから」〔息子に毎日働かせることしか考えない、ひどい母親だが、“生きていけない” ような状況を創り出している国家の方がもっと悪い〕
  
  
  
  

翌日の建設現場。鉄パイプを2本かついだウリースは、高い空間の上に架けられた木の仮設通路を渡ろうとするが(1枚目の写真)。足がすくんで一歩も動けなくなる。ジャイムが、「来いよ。何してる?」と訊いても、「下を見るな」と忠告しても、高所恐怖症のウリースは、「もし、見なかったら、落ちちゃう」と反論する。作業員に急かされたジャイムは、まず、自分の分を持って行き、仮設通路まで戻ると、「来いよ、弱虫」と声をかける。「できない」。ジャイムはウリースの方に渡ると、パイプをかつぐのではなく、1本ずつ縦に持って、後ろについてくるよう促す。「僕を見ろ。前を見て、下を見るな」(2枚目の写真)。ウリースは、仮設通路を渡り始める。「僕、見てないよ」。「それでいいんだ。簡単だろ」。しかし、足を踏み外したウリースは、真っ逆さまに転落(3枚目の写真)。梁の数から3階分の落下で、しかも下は剥き出しの硬い地面だ。すぐに救急車が呼ばれる。
  
  
  

ジャイムが病院の待合室でじっと待っていると、スタッフ以外立禁止のエリアから ウリースの母が出て来て来る。ジャイムは、「彼、目覚めた?」と訊く。「まだよ。体中、チューブだらけ。医者は 昏睡状態だって。今夜手術するそうよ。頭をね」(1枚目の写真)。「それって、深刻なの?」。「体中傷だらけだけど、頭が最悪」。「でも、ちゃんと治療してもらえるんでしょ? きっと、彼、乗り越えるよ」。別な日、ジャイムは、集中治療室に忍び込み、ウリースの様子を見に行く(2枚目の写真)。ジャイムがウリースの頬を撫でていると、彼に気付いた看護婦が、「ここで何してるの?」と 咎めるように訊く。「僕の弟なんだ」。「ここは、立入禁止なの。さあ、出ましょう」(3枚目の写真)。「いつ、目が覚めるの?」。「はっきりとは言えないわ。 ケースバイケースね。さあ、出なさい」〔ジャイムが、「下を見るな」と言ったことで、ウリースは足を踏み外した。そういう意味では、父の自殺といい、彼には、常に間接的な責任がある。彼が それを認識しているかどうかは分からないが〕
  
  
  

ジャイムは、ガルセーシュの車庫に行き、螺旋階段を上ってガルセーシュの部屋に入る。中からは、女性の喘ぎ声が聞こえてくるが、母で慣れているので、素早くドアを閉める。しばらくすると、ガルセーシュが出て来て、「ノックぐらいしろ」と注意する。ああ言えばこう言うで、ジャイムは、「開いてたから」と平然と答える。「今度は何だ? 別の取引か?」。「話がしたかった」。「どんな?」。「個人的な」。そこに、女性が出てくる。「学校に行かなくていいの?」。「時間がないから」。女性は出て行く。ガルセーシュが用向きを尋ねると、「失業しちゃった。だから、何かないかなと思って来てみたんだ」。「いいや、ガキは雇わん。それに、君に何ができる? 何もできん」。「できるよ。何だって。下のじいさんを助けたっていい。洗車したり、箱を数えるとか。この前、じいさん数え間違えてたよね」(1枚目の写真)。「あいつはもういない。引退した。だが、どうして間違えたこと知ってる?」。「僕、見てて数えたんだ」。“数えられる” というのは、「何もできん」と否定したことの “否定” になる。「幾つだ?」。「14歳」〔実際はあと数日で14歳〕。「分かった。いいだろう。仮採用だ」(2枚目の写真)。「いつから?」。「何を待ってる。彼女のためにドアを開けてやらんか」。こうして、ジャイムは、老人の代わりに働くことになる。恐らく翌日、ジャイムが車庫の大きな滑り戸を小さな体で押し開け、ガルセーシュの別のスポーツカーを洗っていると、解雇された老人が入って来て ネチネチと話し始める。その目的は、洗車してやるから、賃金を半分寄こせというもの。映画でははっきり描かれていないが、ジャイムは、先にコルーナが言った 「これまで、お前が、お父さんのような奴の仕事を奪わなかったと、どうして分かる?」という言葉が心に引っかかり、せっかく与えられた仕事を放り出してしまう。
  
  
  

その後、父のいなくなった河岸で寂しい時間を過ごしたジャイムは、ウリースの様子を見に、病院に行ってみる。すると、玄関からコルーナが出てくるが、ジャイムと目が合っても何も言わずに立ち去る。心配になったジャイムは、この前ウリースが入っていた病室の前まで行くが、ガラス越しに見えたのは、誰もいないベッド。彼は、ウリースの母を廊下で見つけて走り寄る。「彼、目が覚めたの?」。しかし、母は、ウリースの大事にしていたナイキを、「これまだ いい状態だから、捨てるのはもったいない」と言ってジャイムに渡す(1枚目の写真、矢印)。ウリースの死を知ったジャイムは、ナイキを抱きしめる。そして、ナイキを手に持って、ドン・ルイス1世橋を走って対岸に向かう(2枚目の写真、矢印)。ジャイムは スーパーに行って母に会おうとするが、上司に捨てられてクビになり、今はデオリンダの所にいると教えられる。ジャイムは、さっそくデオリンダの “託児所” に行く。母は弱っていて、2階のベッドに寝かせられていた。ジャイムがそばに寄り、「母さん」と呼ぶと、彼女は感激して息子を抱きしめる(3枚目の写真)。
  
  
  

ジャイムは、ガルセーシュに会いに行き、車庫の前で、「仕事に戻してもらえません?」と頼む。「老人の仕事がやりたいんだな?」(1枚目の写真)。ジャイムの、「前にやってた仕事」という返事に、“老人” という表現が入っていなかったので、ガルセーシュは、「老人の仕事が欲しい」と、明確に言うよう求める。ジャイムが、その通りに言うと、仕事に復帰できる。それからどのくらい日数が経ったのかは分からないが、2台のバンが到着すると、ジャイムは滑り戸を開け、助手席に向かって、「Tシャツを下ろして。個数をちゃんと数える。正面へ」と、手慣れた様子で指示し、バンを車庫の正面中央に入らせる。2台目には、最後を「左側に」と変える。そして、2台とも車庫に入ると、「急いで」と再度指示。実にてきぱきとしている(2枚目の写真、矢印)。
  
  

ジャイムの母は、息子に看病されながら、「あんたには働いて欲しくない。私が 別の仕事に就いたら、あんたは学校に行き、新しいアパートも借りないと」と言う(1枚目の写真)。時は流れ、母が元気になると、ちゃんとした服に着替え、肉屋に入って行く。「お早う、テオフィロさん。挽肉100グラム お願い」。元々ジャイムの母が好きな肉屋の主人は、笑顔で 「挽肉100グラムですね?」と確認する(2枚目の写真)。主人が挽肉にするために肉を切っていると、母は、「レジ係 まだ探してらっしゃる?」と尋ねる。「ええ、探してますよ」。「私も、レジ係の仕事をやりたかったの。いつから始められますか?」。「今すぐ」。こうして、母は 健全な定職に就くことができた。
  
  

一方、ジャイムは、以前買おうとしていたバイクを牽きながら車庫から出てくる(1枚目の写真)。そして、ヘルメットを被ると、バイクを発進させる。彼は、片側1車線で混雑しているドン・ルイス1世橋の上段の部分を走る〔1886年はまだ馬車の時代。片側1車線で十分だった〕。映画のラストは、上空からバイクを捉えた映像で、カメラが徐々に引き、橋の全貌の中に、バイクが点のようになるまで遠ざかる(3枚目の写真、矢印)。この終わり方を見ていると、母が定職に就いても、ジャイムは学校へは戻らず、少年労働者として働き続けるような気がしてならない。
  
  
  

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